大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和51年(ネ)1401号 判決 1977年10月27日

控訴人(附帯被控訴人以下控訴人という)

大倉喜八郎

被控訴人(附帯控訴人以下被控訴人という)

小出ミツ

"

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人は、被控訴人に対し別紙第一目録(二)記載の建物を収去して、同目録(一)記載の土地を明渡し、かつ、昭和四〇年七月二日以降同四八年七月三一日まで一か月につき五万一五〇〇円の割合による金員を、昭和四八年八月一日以降右明渡ずみまで一か月につき一一万二二五一円の割合による金員を支払え。

2  被控訴人のその余の本訴請求および控訴人の反訴請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。別紙第二目録記載の土地が控訴人の所有であることを確認する。本件附帯控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求め、附帯控訴として、「控訴人は被控訴人に対し、昭和四〇年七月二日以降同四八年七月三一日までさらに一か月につき二万一七八五円の割合による金員を支払え。」との判決を求めた。

第一  被控訴人の本訴請求原因

一  被控訴人は、明治三二年三月八日別紙図面中(ヌ)(ル)(オ)(ワ)(ニ)(カ)(ヨ)(タ)(へ)(ヌ)の各点を順次直線で結んだ範囲の土地(以下単に従前の本件土地という)を含む大阪市天王寺区上本町七丁目六五番地宅地三八五三・五一平方メートル(一一六五・六九坪)(以下単に六五番地の土地という)の所有権を取得し、従前の本件土地は被控訴人の所有である。

さらに、被控訴人は、前同日大阪市天王寺区上本町七丁目六六番地、六七番地、同町八丁目四六番地、同区東平野町四丁目六番地、一〇番地の五筆の土地(以下単に六七番地等の土地という)所有権を取得し、従前の六七番地等の土地も被控訴人の所有である。

二  昭和二三年一二月二五日大阪市復興特別都市計画事業の施行者たる大阪市長は、六五番地の土地につき、換地予定地として大阪市復興特別都市計画土地区画整理上汐町工区九ブロツク符号五、宅地二二三六・三六平方メートル(六七六・五坪)を指定し、六七番地等の土地につき、同工区一〇ブロツク符号四、宅地三八二七・一〇平方メートル(一一五七・七坪)を指定した。そして、被控訴人は右換地予定地に対する使用収益権を取得した。

三  控訴人は、昭和三七年末頃より右換地予定地一〇ブロツク符号四内の別紙第一目録(一)記載の土地(以下単に本件土地という)上に同目録(二)記載の建物(以下単に本件建物という)を建築して本件土地を占有し、被控訴人に対し昭和四〇年七月二日以降同四八年七月三一日までは一か月六万〇二〇〇円の割合、昭和四八年八月一日以降一か月二〇万四八八〇円の割合による賃料相当の損害を被らせている。

四  よつて、被控訴人は控訴人に対し本件土地に対する使用収益権に基づいて、本件建物収去、本件土地明渡しを求めるとともに、本件訴状送達の日の翌日である昭和四〇年七月二日以降右割合による賃料相当損害金の支払いを求める。

第二  本訴請求原因に対する控訴人の認否

一  請求原因第一項中、被控訴人がその主張の日に従前の本件土地を含む六五番地の土地の所有権を取得したことは認めるが、従前の本件土地が現在被控訴人の所有であることは否認する。

二  同第二項中六五番地の土地につき、大阪市復興特別都市計画事業が施行され、その主張の日時に大阪市長より換地予定地の指定があつたことは認める。しかしながら、右換地予定地としてその主張の九ブロツク符号五が指定されたが、前記都市計画事業の実施については、本件土地は一〇ブロツク符号四の換地予定地内に所在することになつている。

三  同第三項中、控訴人が本件土地上に本件建物を所有して本件土地を占有していることは認めるが、その余は争う。

第三  抗弁、抗弁に対する認否、再抗弁、再抗弁に対する認否および反訴についての当事者の主張ならびに立証関係は、次に付加訂正するほか原判決事実摘示(原判決四枚目表六行目から同一四枚目表二行目まで)と同一であるから、これを引用する。

(訂正)

一  原判決五枚目裏七行目「被告」とあるを「原告」と訂正する。

二  同八枚目裏一行目ならびに一一枚目表八行目に各「符合」とあるを、いずれも「符号」と訂正する。

三  同一一枚目表一〇行目「第二の土地」以下一一行目終りまでを削除し、「第二の土地は前記六七番地等の土地の換地予定地として指定された一〇ブロツク符号四に属する。」を挿入する。

四  同一三枚目表七行目「同山口天龍」を削除する。

(付加)

一  被控訴人の主張

1 かりに、控訴人が第二の土地の所有権を取得したとしても、控訴人が占有する本件土地は、その従前の土地の換地予定地に属しないから、控訴人は本件土地につき使用収益権を取得することはない。

2 控訴人主張の第二の土地は、六七番地等の土地の換地予定地(一〇ブロツク符号四)に属するから、控訴人が右土地の占有を継続していても、その従前の土地でない六五番地の土地の所有権を時効取得できるいわれはない。

二  控訴人の主張

被控訴人の右主張は争う。

三  証拠関係(省略)

理由

第一  本訴請求について

一  被控訴人がその主張の日に従前の本件土地を含む六五番地の土地の所有権を取得したこと、右土地につき大阪市復興特別都市計画事業が施行され、昭和二三年一二月二五日右事業の施行者である大阪市長により換地予定地が指定されたことおよび控訴人が本件土地上に本件建物を所有し、右土地を占有していることは当事者間に争いがない。

右争いない事実に成立に争いのない甲第一号証、同第一九号証、同第二一号証の一ないし一二、同二二号証の一ないし一五、当審証人小出正己の証言、同証言によつて成立を認めうる甲第三四号証に弁論の全趣旨により成立を認めうる甲第三六号証を総合すると、六七番地等の土地も被控訴人の所有であつたところ、同土地についても前記都市計画事業の施行に伴い換地予定地の指定がなされたこと、六五番地の土地の換地予定地として大阪市復興特別都市計画土地区画整理上汐町工区九ブロツク符号五、宅地二二三六・三六平方メートル(六七六・五坪)が指定され、六七番地等の土地の換地予定地として同工区一〇ブロツク符号四、宅地三八二七・一〇平方メートル(一一五七・七坪、ただし非課税地を除けば三三五〇・六四平方メートルで一〇一三・五七坪となる。)が指定されたこと、控訴人占有中の本件土地は六七番地等の土地の換地予定地一〇ブロツク符号四内に属し、本件土地およびこれを含む第二土地の従前の土地、六五番地の土地の換地予定地は別の九ブロツク符号五内に存在すること、したがつて、本件土地は六五番地の土地の換地予定地に属しないことが認められる。控訴人は一〇ブロツク符号四に対応する従前の土地中には六五番地の土地が含まれており、したがつて、本件土地は六五番地の土地の換地予定地内に存する旨主張するが、右主張を肯認して前認定を覆えすに足りる的確な証拠はない。

二  そこで、本件土地に対する控訴人の占有権限の有無につき判断する。

1  まず、売買による第二の土地所有権の取得を理由とする使用収益権の主張についてみるに、控訴人占有の本件土地が六五番地の土地の一部である第二の土地の換地予定地に属しないことは前記認定のとおりであるから、第二の土地の所有権を取得したことにより本件土地占有の権原を理由づけるものではないのみならず、右売買の成立を認めえないことは後記第二で判断するとおりである。したがつて、右使用収益権の主張は理由がない。

2  次に、控訴人の時効による第二の土地所有権取得の主張についてみるに、控訴人が時効取得の前提として占有の継続を主張する第二の土地部分は六五番地の土地の換地予定地に属せず、六七番地等の土地の換地予定地に属するものであること前認定のとおりであるから、第二の土地の占有を継続することにより、これに対応する従前の土地(元地)でない六五番地の土地の一部につき所有権を時効取得できるいわれはない。したがつて、右時効取得の抗弁はその他の点の判断をまつまでもなく理由がない。

3  さらに、控訴人の賃借権の承継取得を理由とする占有権原の主張につき判断するに、控訴人占有中の本件土地が控訴人主張の賃借土地(従前の土地六五番地の土地の一部)に対する換地予定地として指定された部分に属しないこと前記のとおりであるから、その他の点の判断をまつまでもなく、右賃借権の主張も理由がない。

三  以上判断したところによれば、被控訴人はその所有する六七番地等の土地につき換地予定地指定処分により取得した使用収益権に基づき、控訴人に対し本件建物を収去して本件土地を明渡を求めうること明らかである。

四  次に、損害金について判断する。

原審証人大倉真一の証言によれば、控訴人は、遅くとも昭和三七年一月一日本件土地上に本件建物を所有していることが認められ、本件土地を占有する権原のないことは既に認定したとおりであるから、被控訴人の本件土地に対する使用収益を妨げ、賃料相当の損害を被らせているというべきである。

当審鑑定人田中淑夫の鑑定の結果によれば、本件土地の適正賃料は昭和四〇年七月一日当時月額金五万一五〇〇円同四八年八月一日当時月額金一一万二二五一円であることが認められ、(もつとも右鑑定では本件土地の地積を九九平方メートルとして計算しているので、当事者間に争いない地積八四・六六平方メートルに基づいて計算し直した。)成立に争いのない乙第一五号証は右認定を左右するものではなく、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

してみると、被控訴人の損害金の請求は、本件訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四〇年七月二日以降同四八年七月三一日までは一か月金五万一五〇〇円、昭和四八年八月一日以降右明渡ずみまで一か月金一一万二二五一円の割合による金員の支払を求める限度において理由があり、その余は失当である。

第二  反訴請求について

当裁判所も控訴人の反訴請求は理由がないものと判断するが、その理由は原判決理由説示と同一(原判決理由第七項ならびに第二項中原判決一五枚目表五行目から同一九枚目表五行目まで)であるから、これを引用する。当審での証人大倉真蔵の証言も右認定を左右するに足りない。

第三  以上の次第で、本件控訴および附帯控訴は、いずれも一部理由があるので原判決を主文第一項のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条但書を適用して、主文のとおり判決する。

(別紙)

第一目録(本訴関係)

(一) 土地

(換地予定地の表示)

大阪市復興特別都市計画土地区画整理上汐町工区一〇ブロツクの符号四

宅地 三八二七・一〇平方メートル(一一五七・七坪)のうち八四・六六平方メートル(二五・六一坪)

(別紙添付図面中(ヌ)(ル)(オ)(ワ)(ニ)(カ)(ヨ)(タ)(へ)(ヌ)の各点を順次直線で結んだ範囲の土地に該当し、二記載の建物の敷地部分である)

(二) 建物

右土地の地上所在

家屋番号 上本町六五番の一

木造瓦葺二階建店舗並居宅

一階 二四坪八合五勺

二階 二一坪三合

第二目録(反訴請求関係)

大阪市天王寺区上本町七丁目六五番地

宅地 三八六四・四五平方メートル(一一六五・六九坪)

右土地のうち宅地一二七・二三平方メートル(三八・四九坪)ただし大阪市復興特別都市計画土地区画整理上汐町工区一〇ブロツクの符号四のうち別紙添付図面中(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(チ)(リ)(イ)の各点を順次直線で結ぶ範囲の土地に該当する

(別紙図面は第一審判決添付のものと同一につき省略。)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例